諸々の事象は過ぎ去るものである。怠ることなく修行を完成なさい 五木寛之さんの「ブッダ最後の旅 9」

 題 : 諸々の事象は過ぎ去るものである。怠ることなく修行を完成なさい 
                  五木寛之さんの「ブッダ最後の旅 9」

五木さん: ある時、アーナンダに向かって、仏陀は衝撃的な言葉を
     述べます。
      それは、「自分は、もう、3ヶ月後には、この世に居ないだろ
     う」という、そういう予言です。
      アーナンダは、さぞかし、もう、驚愕し絶望したに違いありま
     せん。
      しかし、余命は、もういくばくもない、自分は3ヵ月後に、この
     世を去る。
      自分の言っていることは、決して間違いない。
      こういう風に、仏陀は、断定します。
      おそらく、仏陀の80年の生涯の中で、自分の人生の終わり
     というものを、すっきりと予感した。
      そういう瞬間だっただろうと思いますね。
      ・・・で、仏陀は、アーナンダに、「自分はこの世を去る、去る
     前に、自分が、色々、言っておきたいことがある。
      だから、「修行僧達を沢山集めなさい」 こういう風に、アーナ
     ンダに命じます。
      そして、アーナンダが、集めた大勢の修行僧を前に、仏陀は、
     この様に言われたという風に、経典には書かれています。

        そこで尊師は、
        修行僧達に告げられた
        さあー、修行僧達よ
        私は、いま、お前達に告げよう
        諸々の事象は過ぎ去るものである。
        怠ることなく修行を完成なさい。
        久しからずして
        修行完成者は亡くなることだろう
        これから3ヶ月過ぎた後に
        修行完成者は亡くなるだろう・・と、

        尊師・幸いな人、
        師はこの様に説かれた。
        この様に説いたあとで
        さらに、
        次のように言われた
        我が齢は熟した。
        我が余命はいくばくもない。
        汝らを捨てて、私は行くであろう。
        私は自己に帰依することを成し遂げた。
        汝ら修行僧たちは、
        怠ることなく よく気をつけて
        よく戒めをたもて。
        その思いをよく定め統一して
        おのが心をしっかりと守れかし
        この教説と戒律とに務め励む人は
        生まれを繰り返す輪廻を捨てて
        苦しみも終滅するであろう・・と、

      物事は、移り変わるものだという様な事を、いくら口で言って
     も、どんなものでも流転するという様なことを、自分の身をもっ
     て、みんなに語ろうとしているんではないでしょうか。
      例えば、仏陀という人が、尊敬され、そして、その教えが、広
     がれば広がるほど、その人を、偶像化して、永遠に戴いて崇
     拝していこうという気分というのは、強まってきますよね。
      どっかで自分は、もう、如何に仏陀といえども、自分も涅槃に
     入るんだという事を言って、それで、その時、突然、自分が居
     なくなって、周りが大混乱するよりも、あと3ヶ月というこの日々
     を、周りの修行僧やアーナンダ達が、しっかり心に刻んで、あと
     1日、あと1日という風に、大事にして生きるようにという、生き
     るもの・残されたものへの配慮だという風に、思いますけどね。
     ・・・・・。
      あのー、僕自身はね、余命ということを考えないんですよ。
      むしろ、天命という考え方、で、自分が何時まで生きるとか、
      何時死ぬとか、そういうことはね、ほとんど考えたことは無い
     んです。
      あのー、出来れば長く元気で生きられれば良いと思います
     けれども、人間の天寿というものは、あらかじめ決まっている
     んじゃないかなーという事を考える事がありましてね。
      その天寿を全うしたい、ですから、世の中というのは、すごく
     不合理なもので、30歳の天寿の人も居れば、10代で亡くな
     る人も居る、90歳、100歳まで生きる人も居る。
      ですから、僕は自分の人生と言うのは、ある時期から、「い
     つでも」と言うのは、おかしいのですけれども、「もういいよ」と
     いう、声なき声が、聞こえてきた時が、自分の寿命の尽きる
     時だと思っていますし、寿命が尽きると言うことがですね、何
     か終わるとか、無くなるとか、そういう風に考えていないので
     すね。
      ですから、何か新しい出発と感じもしますし、とりあえず、与
     えられた、今日一日、明日の一日、仏陀の言葉の様にですね、
     元気を出して、苦しみに耐えてという風に思ってますね。
      ですから、寝る時は、もう、明日は目が覚めないかもしれな
     いという風に思いますし、起きた時に、「あー、今日一日あった
     な」と思いますし、あまり、そういう風に先の事を考えたことが
     無いですね。
ナレーション: 自らの死を予言した仏陀
      別れを惜しむ人々が、数多く後を追ってきました、しかし、仏
     陀は、彼らに戻るように説き、形見として自分の托鉢の鉢を
     渡しました。
インドの仏教歌: 
        金のお皿でご飯を
        食べて貰いましょう
        仏陀に乳粥(ちちがゆ)を
        差し上げましょう
        金の台の上に
        席を用意しましょう
        仏陀にお願いして
        座って貰いましょう
        ここで仏陀
        静かに休んで貰いましょう
        私は、みんなに仏陀
        来ていることを知らせます
     
映 像 : 長い汽笛を鳴らして走り、そして去っていく列車